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ある都市の一日、人の動きを記述する-Grasshopperを活用した都市分析-

 2020年5月

動機

都市は動きに満ちている。それをどのように捉え、建築の設計に活かすのか。

上のテーマに興味を持つきっかけは、2つあった。 一つは、藝大学部時代の制作で非常階段での人々の振る舞いを観察した経験で、もう一つは2019年香港で街全体が思いつく限りの「動き」に満ちていてる様を目撃したことだ。 前者は限定された小さな空間におけるものではあるが、そこから設計まで繋げることができたので、今回の制作に踏み切る自信のようなものになっていた。 後者については、「冗長な都市、持続する運動」という記事で紹介したように、 「動き」がある種の持続性をもっていたことから、制作に繋げられる可能性を感じていた。

このような動機があって、2020年のAAスクールのスタジオ課題では、小さな空間での人々の行動、そして都市全体での人々の行動を記述することを経て、行動の結節点として動的に使われる空間を設計した。 この記事では、私ののAAスクールのスタジオでのリサーチのうち、広範囲のリサーチを扱ったリサーチを取り挙げる。 小さな範囲のリサーチに関しては、機械学習で画像データを分析するGoogle Vision APIを利用した上でGrasshopperで位置情報に変換するなどの工夫を友人(@genya0407)と構築したので、これについても後ほど公開したい。 なお、このリサーチはあくまでデザインに接続する前提としてのリサーチであるため、おそらく一般的な研究よりもユルく、着眼点や方法論そしてなによりデザインとの接続可能性から進められている。それについては、このページの下に書く*。

今回取りあげる広範囲でのリサーチでは、駅利用者の行動の軌跡をユーザーの種類・通る時間帯に着目してモデル化した。 これによって、各ユーザーグループのとる経路と、それらの空間・時間上の重なりを推測することを目的としているほか、モデル構築の方法をそのままデザインに応用することを狙いとしている。


ある都市の一日

ある都市の一日の人の動きを記述する

Grasshopperを用いて、ユーザーごとの経路のモデルをつくる

ロンドンのある地区のリサーチからベースとなるモデルを構築し、そのモデルをオランダ・ユトレヒトの街全体に応用した。 地区から都市全体へスケールする必要があること、現地調査が困難であることから、グラスホッパーを用いてモデルを作ることにした。

ベースとなるモデル

ロンドン・パディントンでのリサーチで、時間軸を高さ方向に置き換えた記法を用いて、一日を通して人の動きがどう変わるかを記述(Rhinoceros上で手作業で描写)した。 用いたデータは、GoogleMapでの混雑度を表示するグラフ、施設が公開しているあるいは面積から想定される利用者数、そして現地調査(かなりこの場所に通った。寒かったな。)である。

ある地区の一日における人の動き

ある地区の一日におけるプログラムの占有度の変化

ある地区の一日における典型的なユーザーの経路

都市スケールでの人の動きを記述するための大まかな手順

前節で紹介したリサーチを、オランダのユトレヒト駅周辺エリアに適用する。

ユトレヒト駅周辺の航空写真

前節では手作業でプログラムを配置したり経路を描いたりしていたが、今回はスケールを広げるために、グラスホッパーでスクリプトを書き自動化する必要があった。 下図のような手順で、時間帯・ユーザーに応じた経路のモデルをつくる。なお、この節のリサーチの前半は同級生のLaure Jaberと協力しておこない、後半で各々のドローイングを書くことになった。

手順メモ

Grasshopperを通じて、OpenStreetMapからデータを取り込む

地理データをどう入手するか、というのが一つ目のステップ。私たちが普段よく使うグーグルマップは、画像データを表示しているだけで、地図の線データを公開していない。 地理データをRhinocerosに取り込むには、以下のような方法があげられる。
a.OpenStreetMapから、Grasshopperを通じて、線データを入手する
b.GoogleMyMapから、AutoCadMapperを通じて、線データを入手する。
c.その他団体が公開するデータ、例えば日本だと国土地理院の基盤地図など。

今回は主にaの方法を用いた。なぜならば、各種プログラム(商店、オフィス、劇場など)に加え、車道・歩道・自転車道の中心線などを取り込むことができ、都市リサーチの基本部分で必要なものが揃えることができるからだ。 Grasshopper のelkというコンポーネントをダウンロードすることでコンポーネント内で各種設定をし、様々な種類のデータを取り込むことができる。 補助的に、GoogleMyMapで検索・登録した駐輪場の場所も取り込んだほか、新しく開発されるエリアについては分かる範囲で推定してデータを制作した。

プログラムと行動パターン

たとえば会社員は、駅→会社→ランチ→会社→駅、というような行動パターンを持つ。これらの行動パターンを、プログラムの種類(shop,office,station,school,theater,residencial)とプログラムの大きさから、推定する。

プログラムのマッピング(色ごとにプログラムの種類が異なる

出発点・目的地を線分化した例

道路と経路

道路について、Segment化されたCurveデータ、それぞれの長さ、の2種のデータを用意する。 Glasshopper でShortestWalkコンポーネントをダウンロードし、2種の道路データ、上記の行動パターン出発点から到着までの線分データをいれると、経路を入手することができる。

時間帯の推定と、交差点の記述

時間軸を高さ方向に置き換えた記法を用るので、上で入手したユーザーの経路を時間帯に応じて上に持ち上げる(朝は低い位置、夜は高い位置となる)。加えて、図の視認性を高める狙いから、ユーザーの経路が主要交差点を通過する場合にも印をつけておく。

駅利用者のうち、会社員の経路。縦軸が時間。実線部が徒歩、点線が自転車による移動。

駅利用者のうち、消費者の経路。縦軸が時間。実線部が徒歩、点線が自転車による移動。

駅利用者のうち、学生の経路。縦軸が時間。実線部が徒歩、点線が自転車による移動。

駅利用者のうち、の経路。縦軸が時間。実線部が徒歩、点線が自転車による移動。

すべてのユーザーの一日の経路のモデル。実線部が徒歩、点線が自転車

交差点を通過するユーザーの記述

考察

これらの図から様々なことが読み取ることができる。 全ては上げきれないが、各ユーザーグループの行動を見るだけでも、消費者が駅から東西に伸びる軸を中心に活動すること、学生が駅の東側のみを活動することなどがわかる。 また、各ユーザーグループの重なりをみても、ユーザーグループが重なる場所と重ならない場所があることがわかる。例えば、駅北東(画面左上)を通るのは住民が多いなどだ。 そして重なる場所であっても、時間帯も加味するとユーザーグループが交わっていないということが読み取れる。 したがって、この図上で敷地を設定すると、その敷地周辺をどのようなユーザーが通るかということも読み取ることができる。 また、このモデルのために書いたグラスホッパーのスクリプトを設計する空間内にも適用することで、簡易的なシミュレーションを行うこともできる。 次の記事で、今回の広範囲のモデルの補足として、限られた範囲における人の振る舞いのリサーチを紹介し、更に次の記事でデザインへ話を進めたいと思います。 最後まで読んでいただきありがとうございます。

*デザインのための都市リサーチとは

専門的な研究、例えば都市社会学の文章を読むたびに、自分が行っているリサーチがいかに足りていないかということを実感する。 ただ、私の理解では、建物のデザインのための都市リサーチを、とくに短期間である場合、リサーチの妥当性にはかなりのユルさがあり、それよりも着眼点や方法論そしてなによりデザインとの接続がむしろ問われていると思う。 というのは、実際に建物を設計するときには、多くの分野の専門家の知見を聞くことができ、建築家は多くの場合、それらの知見をどうデザインに繋げるのかという点に責任を持つからだ。

文章・ドローイング©富永秀俊