一年生の時、藝大の正門の「汚れ」と「欠け」だけを描いたことがある。
レンガの角は欠け、人や車や扉が通るところは凹み、木の下は実で汚れるーーそういうふうな蓄積で、シンメトリーな空間の緊張感が和らいでいくように見えた。
汚れと欠けをもう少しニュートラルに言うと、建物が何かを失ったり得たりすること、と言えるだろう。 建物は呼吸をするように何かを失ったり得たりしていて、建物の輪郭、空間の輪郭は日々変わっていくのだ。 その変化はたとえ小さいものでも、空間の印象を大きく左右するものだと思う。
汚れと欠けから想像できることを列挙してみる。ほんとは幾つかイラストも描いたのだけど、ドローイングの中で探してみてほしい。
衝突:人や荷物はレンガ塀にぶつかって、角がどんどん落ちていく。 良く見ると腰から下の部分の煉瓦が一番欠けていて、やっぱり荷物があたったのかな、と思う。それから音校の木の扉には小さな通用口がついてて、そこの足があたる部分も大きくえぐれてる。
投影: 木の下は木の実で汚れていた。一方で木の下のほうが、レンガやタイルの剥落は少なくて、雨から守ってくれているのだと思う。 街灯の下は、街灯にとまる鳥のせいで汚れている。
車輪: 音校の正門のタイルは、車の車輪が良く通るところが凹んでいる。門扉の車輪もレールに傷をつける。 それからガードレールの支柱には、車輪が弾き飛ばした泥水の汚れがついていて、それらは車の進行方向と逆側についてる。
記号: 美校側の塀はインド砂岩でできていて、とても汚れている。 けれど「東京藝術大学」という6文字の金属の文字が張り付けてある下は雨が流れないから、そこは残っている。
In this drawing , I only drew stains and cracks of the main entrance of Tokyo University of the Arts. People and luggage have frequently hit bricks and sometimes break them off. Under the tree, the ground has get dirty because of berries of trees Column of guardrail get dirty in certain part depending on the direction of cars. Tiles below tires of car sink to the ground. We often regards them as just trifle matters, but I believe they are important elements of space.
このまえ藝大に用があって行ったときに、門が工事中だったので少しびっくりした。新しいものをつくるのかな、と勘違いしてしまったのだけど、そうではないみたい。
東京藝術大学正門再生プロジェクトのページを見ると、なるべく今あるレンガを使うとのことでちょっと嬉しかった。
そして解体途中の写真を共有して下さる方もいました。
こうしてナンバリングしながら解体していたので、この順番の通りに戻すのだと思います。 pic.twitter.com/zm2OmVhnfh
— 藤中康輝 (@fujinakakoki) August 24, 2019
五年前、こんなドローイング描いててよかったな、と思う。ご指導頂いた教員の方々に深く感謝します。